研究概要 |
ナノメータスケールの機械加工現象を正確に理解し,超精密加工の高精度化,高能率化を達成するためには,加工単位の微小化に伴う加工現象の変化を実験的に観測することが重要である.本研究では,水平分力測定が可能な摩擦力顕微鏡(FFM)機構を用いて,従来の単粒加工実験よりも小さく,かつ原子間力顕微鏡(AFM)による加工よりも大きな加工単位での単粒加工実験が可能な装置を開発した.開発にあたっては,改造や実験条件設定の自由度を優先し,全てのシステムを独自に設計・試作した.ここで鍵となったのは,測定用カンチレバーの1000倍以上のたわみ剛性を有し,ダイヤモンド砥粒を切れ刃とした加工用カンチレバー(単結晶シリコンの異方性エッチングを用いて作製)である.これにより,10nmオーダの切込み量の機械的除去加工を実現した.また,加工時と加工痕測定時でカンチレバーを交換できる機構を装備し,加工痕形状の高精度なAFM測定を両立させた.そして,開発した装置を用いて微小加工実験を行い,FFM機構を用いた加工特性を把握した.また,微小な機械加工に伴う諸現象を観測することを目的とした実験では,1)切込みの小さなスクラッチ加工においては材料表面の変質層の影響で切れ刃に作用する水平分力が変化すること,2)4つの金属材料と3つの硬脆材料の極微小加工から材料により切りくずの形状および水平分力が異なること,3)切れ刃摩耗の定量評価からナノオーダの切削加工においても初期摩耗・定常摩耗そして寿命へ至る摩耗進行過程が存在すること,などを明らかにした.以上の研究成果により,本研究で開発した装置が,これまでに無い加工単位での機械加工実験を実現し,極微小加工における現象解明に有効であることを示した,また,FFM機構を応用したナノスケール切削加工技術の基礎を築くことができた.
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