研究概要 |
本研究では,2台の電子天秤による同時測定により,蒸散および吸水の瞬間流量を計測する簡便な手法を提案し,環境変化に対する蒸散・吸水量の微視的な応答解析に応用した。特に,過渡応答として,光照度のステップ変化に対し吸水量は蒸散量に対し位相が遅れ,蒸散量は定常値をオーバーシュートすること,根を切断した場合や渇水状態において十分な水分を根部に供給するとき吸水量が蒸散量より位相が進むことを明らかにした。定常特性として,植物の成長が盛んなとき吸水量が蒸散量を上回ること,根部が土壌中にある場合は蒸散・吸水流量が脈動しやすいこと,植物のしおれの影響,根部が水中および土壌中にある場合の比較などを実験的に明らかにした。これらの結果は,過渡応答計測や長時間自動計測に有効な吸水・蒸散量の同時計測法の開発によって明確にされたものである。 一方,吸水量をポトメータ法により測定し,根がある植物および根を切断した植物に対し根部の静水圧を減少させ吸水量が零となる静水圧の測定,茎部の流動抵抗の測定,茎部断面の道管直径・道管本数の顕微鏡撮影の結果から,葉部の吸水圧(駆動圧),根部吸水圧および葉・茎・根の各部流動抵抗を実測した。これらのデータは従来,ほとんど公表されていない。以上の計測結果を基に,吸水圧の和が流動抵抗の和と釣り合うとする簡単な吸水モデルを構築した。本実験により,供試植物(ピレア)の葉部:根部の吸水圧比が9:1であり,植物器官の流動抵抗比は葉:茎:根が1:1:1.5であることを示した。また,葉および根による吸水圧は葉の枚数に依存せず一定であり,本モデルにより吸水量は葉の枚数(表面積)に比例するのではないことを明らかにした。さらに,根部の吸水圧が大気圧以上になると,過剰な吸水量となるため根は吸水力源でなく内部抵抗源となることを見いだした。研究成果として,4回の口頭発表を行った。
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