研究概要 |
本研究では分子動力学により吸収溶液として広く用いられている電解質水溶液の分子構造および結晶化の分子シミュレーションを行い,水溶液のミクロな構造を明らかにするとともに,分子レベルでの溶液の構造が吸収溶液として重要である溶解度,蒸気圧低下等とどのように結びつくかについて考えることを目的とする.希ガスのような単純液体の場合は定量的にも様々なことが明らかにされており,分子シミュレーションは計算機実験として様々な系に応用されているが,電解質水溶液のような複雑液体の場合,分子シミュレーションは主に理論の役割を果たし,様々なレベルでの実験との比較検討が重要である.このような立場から研究を進めた.具体的な実施項目および得られた成果は以下のとおりである.1,分子スケールの溶液構造についての実験との比較検討.複数の塩が含まれている電解質水溶液について簡単な2体ポテンシャルを用いた計算とEXAFS測定を行い,特定のイオン周りの構造がよく一致することを示した.2,溶解度,飽和蒸気圧等のマクロスケールで測定される物性値についての評価.気体と液体が共存するような系で溶解度以上の溶液のシミュレーションを行うことを提案した.これにより系の圧力が飽和濃度での飽和蒸気圧と等しく保たれるため,圧力制御が不要になり計算が簡便になる.代りに非等方性の影響を十分に考慮する必要があるが,大規模な計算が可能な場合,その影響は小さい.3,結晶化過程,吸収過程の分子シミュレーションの検討.吸収過程について吸収速度と非平衡度の関係,吸収速度と溶液濃度の関係を明らかにした.結晶化過程については今後の課題である.
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