研究概要 |
本研究では,不完全な情報・証拠のもとでの人間の認知・推論過程をモデル化できる新しい証拠理論体系を構築した.すなわち,大規模複雑系に関する不完全な知識・情報のもとでの推論,複数の情報源からの情報の統合・更新,情報や知識の不完全性に伴う推論・決定・制御の誤りに関するリスク認知,時間余裕と情報価値の評価,支援情報の動的制御を表現・解析するための証拠理論的モデルを構築した. 不確実な情報のもとでの推論や意思決定には確率論に基づくモデルが用いられることが多いが,本研究ではそれらのアプローチを否定する立場を採らず,むしろ相補性・補完性の充実を目指した.状況認識のための情報・証拠の収集時間が十分ではないにもかかわらず,高いリスクを伴う決定を行わなければならない状況では,人間は認知主導型の意思決定を行うとされる.本研究では,このような場合の状況認識とその動特性の表現,認知主導型意思決定過程の表現には証拠理論的モデルが適切であることを明らかにしたが,「迷い」の許されない支援システムは,確率論的モデルで記述している. 開発したモデルの記述能力および支援形態の有効性を検証するため,プロセス制御系シミュレー夕と航空機離陸中断・継続決定シミュレータを構築し,一連の認知実験を実施した.様々な異常の発生のもとての状況認識,リスクを伴う決定の迷いと誤り,支援システムに対する信頼・過信・不信の心的過程の動特性を解析し,証拠理論モデルの妥当性,状況認識支援インタフェースの設計指針,人間と支援システム間での状況適応的権限委譲方式とインタフェース設計の相互作用を明らかにした.
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