研究概要 |
非侵襲で非破壊な形態の温度測定が実現できれば,(1)センサによる温度場の撹乱がない,(2)センサへの熱伝導に伴う時間遅れがない,(3)高温,高圧などの悪条件下での測定が可能になる,など通常の侵襲的な温度測定の際に遭遇する問題が根本的に解決される。本研究では,物体中の音速が温度によって変化することを利用した逆散乱定量CT法によって,音波による非侵襲,遠隔的なCT温度計測を実現するための検討を行った。具体的には,物体の垂直軸回りの観測データだけを用いた3次元CT手法,後方伝搬リトフ近似による弱散乱線形化近似法,などの本研究独自の工夫によって,今まで実用が困難とされていた逆散乱定量CT法の問題に対処する方法を提示した。さらに,これに基づいた画像温度計測の性能評価試験として,実用上予想される複素受信音圧の測定誤差と再現される温度分布画像の温度測定精度の関係を数値シミュレーションにより明らかにした。水中の温度測定を想定した検討の結果,温度分布の画像解像度(1グリッドの区画寸法)を5mmに選んだ場合,S/N比30dB程度の精度で複素音圧が観測できれば,数10℃の広い温度範囲に渡って,0.1℃以下の精度で温度のCT画像計測が可能であるという良好な結果を得ることができた。このように,本方法では要求される温度分布画像の解像度と温度値の定量計測精度とがトレードオフの関係にあり両者の要求を同時に満足させることはできないが,絶対精度をそれ程要求しなければ,波長程度(λ=1mm at 1.5MHz)までの微少領域の温度計測が可能であることが確認できた。以上の検討により,生体や各種プラントにおける流体中の微少領域における3次元温度分布を,高精度,高解像,高速度に測定することのできる非侵襲CT温度計測法を実現するための基本的に有望な見通しを得ることができた。
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