研究概要 |
適応フィルタの研究は電気通信の広い分野や能動騒音制御の分野で行われ,近年,帯域分割型のサブバンド構造の適応フィルタを用いることが提案されている.従来のサブバンド適応フィルタの出力には伝送遅延があり,特に音響エコーキャンセラーや能動騒音制御などへ応用するためにはこの遅延が大きな問題となる.最近,遅延のない構成法がMorganとThiにより提案された.しかしこの手法の解析は定性的で不完全であり,計算量も大きい.そこで,この手法のより詳しい定量的解析を行なうとともに,より優れた手法を開発することを目指した.その結果以下の結論を得た. 1. 従来手法の定量的な解析 フルバンド適応フィルタは各サブバンドの適応タップを変換することにより得られる.従来手法の変換は正則でないことを明らかにした.すなわち,変換を表す行列はフルランクにならず,最適ウイナー解は値域に存在しないことが判明した. 2. アダマール変換を用いた新手法の提案 2のべキ乗バンドの場合に対するアダマール変換を用いた手法を提案し,上述の欠点を回避できることを基本的な2バンドの場合について示した.アダマール変換は積演算が不要であるため,タップ変換を高速に行なうことが可能となった. 3. 射影アルゴリズムによる収束速度の向上 提案手法とNLMSなどの適応アルゴリズムを用いた場合,収束速度が劣化する場合がある.この問題に対処するため射影アルゴリズムを導入し収束速度を改善した.
|