研究概要 |
磁気浮上系の制振制御を目的としたロバスト制御系設計法を、実用性と逆問題の観点から構築すべく、過去3年度に渡りいくつかの問題に取り組んできた. まずその基礎として,振動現象(スピルオーバ)の発生原因であるモデルの不確かさを閉ループ同定により同定し,つぎにH_∞制御理論を応用して制振制御系を設計する,という同定と制御を一貫して行う設計方法を確立した.前者については,逆問題の観点に基づく従来のILQ設計法と間接的な閉ループ同定法を組み合わせて,モデル化できない浮上体固有の振動モード特性を正確かつ簡単に同定する方法を提案した.後者については,制振制御系の設計にH_∞制御の混合感度問題を適用し,その周波数重みを,閉ループ同定により得られた振動モード特性をもとに適切に選んで設計することで,スピルオーバ現象の抑制に成功した.その結果,スピルオーバ現象の抑制には,観測雑音から出力までの閉ループ伝達関数(相補感度関数)のゲイン特性に,振動モードが存在する特定の周波数帯域でノッチフィルタ特性を持たせることが重要であることが判明した. つぎにその知見をもとに,こうして得られた基礎的結果を実用的な(特に制御器の簡単化の)観点から見直し,実用性に優れた従来のILQ設計法を,上記のような周波数整形問題へ適用可能な形に拡張することを試みた.その鍵は,ILQ設計法で用いる状態観測器に新たな設計の自由度を付加し,これを線形関数観測器に広げたことにある.はじめに同次元観測器を用いる場合について,この自由度を活用して整形可能な相補感度関数のクラスと具体的な整形方法を解析的に明らかにし,実験によりその有効性を確認した.その結果,はじめに設計したH_∞制御器と性能が同じで,次元がほぼ1/3に減った低次元制御器の設計に成功した.つづいて最小次元観測器の場合についても同様の結果を得るとともに,これをロバスト制御系の段階的な設計(つまり,規準性能からロバスト性能を段階的に達成させる設計)に用いた場合は,全次元観測器に基づく先の設計法よりも制御器全体の次元を減らせることも判明した.このように本設計法は,他の多くの設計法とは異なり,得られる制御器の次元が低くなるのみならず,設計パラメータが解析的に得られる,という点に高い実用性がある. その他に逆問題を応用した同様なサーボ系設計法として,周波数重み付き最適サーボ系の設計問題および2次安定論に基づくサーボ系設計問題の逆問題を解くことにより,それぞれ状態フィードバックによる周波数整形法や,パラメータ変動に対してロバストな追従系の設計法も開発した.
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