研究概要 |
(1)目的:惑星・宇宙空間中のプラズマ波動を計測するために,従来,長大な伸展型電界アンテナが用いられている.しかし,今後の宇宙観測ミッションにおいては,簡単な伸展機構でありながら良好なS/Nが実現できる小型アンテナが有用であろう,という発想から小型リジッド電界アンテナの開発を行う.(2)検討課題:人工衛星自体は様々な周波数成分をもつ電磁ノイズ源であるため,小型リジッド電界アンテナの電極部を短くすると受信されるプラズマ波動の信号が弱くなり,S/Nの低下をもたらす.これまでの人工衛星(ジオテイル,あけぼの,のぞみ)の観測データを調査したところ,衛星ノイズは準周期的であるのに対して,プラズマ波動は突発的に発生したり周波数・強度の変動が早いなど非定常な特徴をもつことが確認された.この信号の特性の違いを実時間で識別しノイズを低減させる装置を考案した.(3)信号処理法:アンテナで検出される干渉ノイズ(準周期的ノイズ)と非定常プラズマ波動信号が重畳する信号波形から,干渉ノイズを実時間で分離するアルゴリズムとして中央値識別法を採用した。この方式は波形を直接処理し,他の方法に比して最小の計算ステップですむため実時間処理が可能である.(4)試作システム:小型リジッド電界アンテナとして,tip-to-tip:1mのダイポールアンテナおよび低ノイズ広帯域プリアンプを製作した.また,実時間信号処理部としてTI社製のデジタルシグナルプロセッサを用いて中央値識別法による信号処理を実現した.これは32bitの浮動小数点演算を50MFLOPSの速度で処理可能である.そして,この試作システムに様々な準周期ノイズと非定常信号を入力し、周期信号のみを除去する実験を行い,その結果をシミュレーションで行ったノイズの軽減率の推定と比較し,両者がほぼ一致することを確認した.すなわち,試作段階でのハードウェアの制約から決まる処理可能な周波数帯域7.4kHz以下の信号に対して30dB程度のノイズの抑制が確認された.(5)今後の課題と展望:処理可能な周波数帯域を上げることが望まれるが,以上の考察からそのようなシステムを実現することは十分可能である.本研究の小型リジッドアンテナの採用により,プラズマ波動計測アンテナシステムを著しく小型化でき,また,スピン軸方向へのアンテナ設置が可能となるなど衛星設計の自由度も増すものと期待される.
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