今回の研究は、申請者が研究開発を行っている大気圧質量分析計を香りのセンサーとして使用し、ニューラルネットワークを利用したコンピュータ処理と組み合わせて、人間の嗅覚シミュレータを試作することを目的とした。 1. 現有の大気圧質量分析計の整備 現有の大気圧質量分析計の感度上昇を目指し、イオン導入部のレンズ群の改良とコンバージョンダイノード法によるイオン検出を新たに試みた。これらの改良により高い質量部分での感度に数倍の向上が実現できた。 2. 質量分析計とコンピュータとのインターフェース用ハードウェア・ソフトウェアの制作 質量スペクトルデータの収集・加工をするためのハード・ソフトの制作を試みた。これには、スペクトルを連続して測定しつつ、それを必要な回数積算することで測定精度を向上できるような工夫をしたが、質量分析計の電源装置等に不安定な箇所が存在するためか、質量数の測定が時間的に不安定になるという現象に見舞われ、本年度中の完成が見込めなくなったので、質量分析計をオンラインで動作させることを断念した。 3. 嗅覚のシミュレータ用ソフトウェアの開発と動作結果 伝統的な研究によれば、においは7種類の基本臭に分類される。それぞれの基本臭を代表するいくつかの化合物を準備し、大気圧質量分析計によって大気圧質量スペクトルを測定した。それぞれの質量スペクトルパタンを入力層200、中間層50、出力層7のニューラルネットワークにマニュアルで入力し、対応する香のパタン分類に収束するまで学習をさせた。学習を終えたシミュレータに、新規試料の質量スペクトルパタンを入力して、当該の香りのパタンに分類できるかどうかを確認した。その結果、ニューラルネットワークを用いることによって、多くの化合物の質量スペクトルから香りの分類を行うことができることを確認した。
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