研究概要 |
合成開口レーダ(SAR)リモートセンシングにおける多くのアプリケーションにおいて,SAR画像の統計的性質を理解することが重要となっている.SAR画像の濃度はスペックルとテクスチャの乗法的な相互作用によって空間的に大きく揺らぐが,このうちテクスチャは撮像される表面の多様性に由来し,ターゲットに関する多くの情報を含んでいる.本研究では,テクスチャ特徴量としてフラクタル次元をとりあげ,その有効性を考察した. まず,SAR画像を統計的フラクタルの代表的なモデルである非整数ブラウン運動でモデル化し,ウェーブレット変換に基づく多重解像度解析により,そのフラクタル次元を推定した.多重解像度解析によるフラクタル次元の推定法は,1次元信号に対して既に提案されている(P.Flandrinによる).我々はこれを2次元画像に対して拡張し,1次元の場合と全く同様の手続きでフラクタル次元を推定できることを数学的に示した. 次に,上の推定法を実際のSAR画像に適用した.その結果,対象SAR画像は非整数ブラウン運動によってよくモデル化され得ること,また,SAR画像のフラクタル次元は周波数や偏波により異なることなどが明らかになった.フラクタル次元は,撮像された表面の起伏の激しさや複雑さを捉えるものであると考えられるが,この結果は,波長の長短や偏波の相違によってこれらの複雑性の記述のされ方が異なることを示唆している. さらに,分解能とテクスチャの関係についても考察をすすめた.昨今,SARの分解能は数mオーダーに向上しているが,このような高分解能なシステムが供するデータの統計モデルは,未だ十分に確立されていない.そこで,高分解能SAR画像に対し,(フラクタル次元を考える前に)従来のスペックルとテクスチャの積モデルの妥当性を検証した.検証においてはポラリメトリック(多偏波)なデータを使用し,テクスチャと偏波の関わりについても検討した.
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