研究概要 |
平野部河川(荒川)と河川に平行した隣接市街地域における海風の侵入挙動と熱・汚染物質の時空間分布の解明を試みるため,荒川河川沿いで気象観測を行った.放球ゾンデ・係留気球を用いた高層気象観測の結果,鉛直気温分布の時系列データから河川に侵入する海風の立体的な挙動が捕えられ,上空大気の下層部分において海風の先走り現象が明らかになった.荒川河川敷内および河川周辺の市街地における多点連続観測とアメダスや気象官署などの関東地域の気象資料を用いた客観データ解析の結果より,海風が隣接市街地域よりも河川上で早く侵入していること,この現象は河口付近で強く見られること,関東域の大局的な風系と荒川の流軸方向が一致する場合にこの現象が顕著になることがわかった.上記観測と気象資料より,汚染物質の濃度挙動についても河川内外で違いが見られ,周辺市街地域で発生した汚染物質が河川上に輸送・集積されていることが定性的に示された. また4次元同化手法とマルチネスティング手法を用いた局地気象モデル(RAMS)によってシミュレーションを行ったところ,上記観測で得られた現象を定性的に再現した.また海風の侵入メカニズムを明らかにするため,表面粗度・熱的効果・河川幅の感度分析を行ったところ,1.平野部都市河川の荒川では,夏期の晴天日で一般風が弱い日に風道となりやすく周辺市街地に比べ海風フロントの侵入が早い傾向がある,2.この先走り現象が生じるメカニズムは,周辺市街地に比べて河川の粗度が小さくまた熱的に安定であることが原因となっている,3.特に川幅が大きいと,河川からの冷気移流の影響により,周辺部における海風の侵入がブロッキングされる現象が起きる,4.河川境界層内では河川に物質が集積しやすく,特に海風フロントの先端で濃度が高くなる現象が見られる,ことなどが示された.
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