研究概要 |
太陽放射紫外線(UV:Ultraviolet)は,可視域に近い方からUV-A(400-320nm),UV-B(320-280nm),UV-C(280nm以下)に分けられる。UV-Aと可視域は地上に到達し,UV-Cは大気成分に吸収され地上に到達しない。UV-Bもオゾン層で吸収され地上に到達しないとされてきたが,フロン等によるオゾン層破壊により,我国でも地上到達UV-B増加が報告されている(気象庁,1997;佐々木ら,1997)。人間を含めて全ての生物は,その生体の組立から生命活動に関わる全情報が細胞内のDNA分子へ塩基配列で書き込まれている共通のシステムである。UV-Bは,そのDNAの塩基配列を変化させる。それは皮膚ガンへの要因であり,私たちの免疫システム(ガンや病原菌をおさえる機能)をも低下させる。白内障は眼のレンズの水晶体が白濁し光の世界を失うもので,UV-BだけでなくUV-Aも関与する。植物葉は,紫外域(UV-A,UV-B,UV-C)について95%を吸収している。その紫外域反射は植物種によらず共通に5%程度の低い値である。また,紫外域透過はゼロである。したがって,都市化した私たちの居住間にシールド(shield)効果のある木陰を設計することにより,私たちの紫外線被爆量を減少できる。樹木の根系が育つためには土壌が必要である。樹木の下層に季節の彩りと香りのある低木や草本植物を設計することにより,土壌育成と保全ができ,反射光の軽減効果も得られる。植生と土壌は,温暖化ガスの二酸化炭素の吸収源でもある。設計素材に地域性のある植物種を用いることにより,生物多様性国家戦略の理念にも合致する。植物の可視域特性には自然の光効果(rendering:レンダリング)の関与があり(吉村,1998),景観面,熱環境緩和(梅干野ら,1994,1995),有機的な水の循環利用からも統合的な光環境を設計すべきである。私たちの生命を支えている生態系への紫外線の影響を考えると,河川・渓流・海岸でも紫外線を緩和する植物を採りこんだ有機的な設計が必要である。
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