研究概要 |
介護しやすい作業環境の構築には良好な介護空間の確保が前提となる。介護パターンを13種類にモデル化し,移乗介護動作において介護者や介護機器が必要とする所要空間を計測・評価することで,介護機器の導入に伴う所要空間の条件について明らかにした。所要空間の計測は,移動位置計測システムにより平面上での移動位置をサンプリング間隔0.5秒,弁別性能10cmで連続計測し,移乗パターン別に各要素動作の期間内を単位とした左右及び上下方向での最大移動位置の座標を抽出することで分析した。計測環境は,一連の移乗動作に空間的な制限等を伴わない実験室内のほぼ中央部に,電動ギャッチベットを固定し,部屋の片角に受信機を設置した。 介護所要面積は介護機器の種類により著しい違いが見られた。車いすによる移乗介護では介護者数,ベットと車いすの位置関係等にかかわらず5m2前後にとどまり,リクライニング車いす及びストレッチャの利用による二人介護では,わずかな増加を示した。これに対して,リフターとほかの介護機器との組み合わせによる一人介護の所要面積は10m2以上を必要とした。移乗準備から移動準備までの一連の動作を要素動作間で比較すると,移動準備でのリフターと車いすによる所要空間は,移乗準備や移乗の動作に比較してたいへんに狭まく,また主介護者の作業位置や所要空間に著しい変動を認めた。これに対して車椅子利用による二人介護では,副介護者の位置の変動はわずかであったものの,頭頂部と仙椎部の間にずれが大きく,全要素動作にわたって前屈姿勢の持続がうかがえた。介護所要空間で比較する限り,リフターの利用による移乗動作は広い空間を必要としたが,リフターの活用は介護負担の軽減を可能としており,移乗手順の変更やリフターの設置位置,移動方法等を再検討することにより,所要時間の短縮や所要空間の縮小化は可能となる。
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