研究概要 |
黒鉛晶出型クロム白鋳鉄は炭化物,鉄基地,黒鉛の3相複合組織から構成される.通常黒鉛が片状に凝固する片状黒鉛晶出型クロム白鋳鉄(FG合金)であるが,FG合金に球状化処理を施すことによって球状黒鉛晶出型クロム白鋳鉄(SG合金)が得られる.高温圧縮試験によりこれらの合金の高温変形を律速しているのは主に基地の変形であり,強度は炭化物の性質に依存していることを示した.また,圧縮強度は黒鉛の球状化によってTm/2以下の温度で向上したが,Tm/2以上の温度では変化しなかった.さらに,通常の高クロム白鋳鉄に比較した場合,黒鉛による強度の低下はほとんどなかった. FG合金およびSG合金のすべり摩耗特性を比較材に2.6C-15Cr合金を用い,相手材をSKD11(HRC58)として調べた.各試料には2種類の熱処理を施し鋳放し試料と比較検討した.各試料の硬さはFG合金およびSG合金が,何れの場合も約HRC55であるのに対し,2.6C-15Cr合金は鋳放しのHRC44から熱処理後はHRC60以上になった.大越式摩耗試験による耐摩耗性は,特に高摩擦速度側で各合金の差が顕著で,SG合金が最も優れ,以下FG合金,2.6C-15Cr合金の順になったが,熱処理による耐摩耗性の大幅な改善は見られなかった.また,摩擦摩耗試験では,各合金間の差は顕著に現れなかったが,摩擦速度と摩耗量の関係はおおまかには低速度側にピークを有するプロファイルになり,低速度側が谷になる摩擦係数とは全く逆の傾向を示した. 以上より,黒鉛晶出型クロム白鋳鉄は強さ,耐摩耗性ともに通常の高クロム白鋳鉄系材料に匹敵するかそれ以上であり,かつまた潤滑下では黒鉛が油溜まりとして働くことが予想されることから,耐摩耗材料とし広範囲に使用できる可能性がある.また,基地が鋳放しで残留オーステナイトであるため,耐熱性及び耐食性も優れるものと考えられる.
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