研究概要 |
層状銅酸化物へのフッ素導入のために,まずLa_<2-x>Sr_xCuO_<4-y>,へのフッ素導入を行った.既に報告されているLa_<2-x>Sr_xCuO_<4-y>,とCuF_2との反応による合成に加え,新たにNH_4Fとの反応による合成も行った.CuF_2との反応により合成したLa_<2-x>Sr_xCu(O,F)_<4-z>ではSr量が多い領域でフッ素化処理により超伝導性が現れることが明らかになった.この化合物は電子キャリアー型酸化物超伝導体との報告があるが,試料の銅の平均価数をヨウ素滴定法により調べたところ2価以上となり,電子キャリアー型ではなく,ホールキャリアー型であることが明らかなった.さらに前駆物質であるLa_<2-x>Sr_xCuO_<4-y>を丁寧に合成し,その超伝導分率を詳細に調べたところ,従来超伝導性が報告されているLa_<0.7>Sr_<1.3>Cu(O,F)_<4-z>では超伝導性は現れず,この固溶体系において超伝導性を示す化合物はSr_2CuO_3をフッ素化したSr_2CuO_2F_<2+z>のみであることが明らかになった.従来の報告では前駆体の合成温度が低く,この組成の試料に不純物としてSr_2CuO_3が混在していた可能性が高い.このためフッ素化により生成した微量のSr_2CuO_2F_<2+z>が示す超伝導性を全体の物性と見過ったものと考えられる. 超伝導の現れないLa_<0.7>Sr_<1.3>Cu(O,F)_<4-z>でも,前駆体のフッ素化により結晶のa軸,c軸ともに増加していることから,フッ素導入が行われたことは間違いないが,超伝導を担うCuO_2面が再構築されなかったものと考えられる.さらに,超伝導性を示すSr_2CuO_2F_<2+z>について熱容量測定などによって物性を調べたところ,従来から報告されているT構造のホールキャリアー型超伝導体と類似の超伝導特性を示すことが明らかになった.一方,NH_4Fとの反応により合成した試料ではSr量が多い領域ではフッ素化処理でも超伝導性が現れず,半導体的挙動を示すことが明らかになった.これにより,フッ素化により生成物の構造および物性を制御できることが明らかになった.
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