研究概要 |
岩石強度は造岩鉱物の割合,先在クラックの量,形状,方向など岩石自体の構造特性に依存し,ひずみ速度,応力速度,応力,温度,含水状態などの岩石を取り巻く環境によっても大きく変化する.これらのことは,多くの研究者によって,理論的かつ実験的に究明されつつある. これまでの実験によると,夏場と冬場に行われた1軸圧縮試験から得られた同種の岩石の1軸圧縮強度は冬場でのそれが大きいことが報告されている.この差は,空気中の水蒸気圧が岩石強度に影響を与え,先在クラック先端の応力集中域でのケイ素分子と水分子の化学結合である応力腐食が原因で,湿度が高い,すなわち水蒸気圧の高い夏場の強度の方が小さくなると考えられている.この事実は,岩石周辺の環境によって岩石強度を制御できる可能性を示唆していると考えられる. 本研究は,岩石周辺の環境,すなわち水,アセトン,エタノール,メタノールの蒸気環境および水素環境下での一連の1軸圧縮試験および圧裂試験を実施し,それらが岩石強度に及ぼす影響を明らかにしたものである. 具体的には,製作した低圧および高圧用チェンバーを用い,真空ポンプによってチェンバー内の大気を排気した後,それぞれの物質をチェンバー内に注入し,その蒸気圧を10^<-3>〜10^6Paの範囲で変化させてそれぞれの実験を行ない,次のような結果を得た. 1) 岩石周辺環境の蒸気圧が増加すると1軸圧縮強度および引張強度が減少することを明らかにした. 2) 応力腐食が1軸圧縮強度および引張強度に及ぼす影響の程度はほぼ同様であることを明らかにした. 3) 1軸圧縮試験および圧裂試験における岩石の破壊メカニズムに差異が無いことを実験結果から明らかにした. 4) 最も応力腐食を促進させ,岩石強度に大きな影響を及ぼす物質は水であり,次いでメタノール,エタノール,アセトンの順にその影響の程度が小さくなることを明らかにした. 5) 水素,アルゴン,窒素,酸素のような水酸基を含まない無機ガス環境下の強度は同じ圧力の水蒸気環境下におけるそれの約1.5倍となることを示した.
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