研究概要 |
ホウレンソウは雌雄異株植物であり,雌蕊と雄蕊のいずれが分化するかによって雌性株および雄性株に分けられている。一方,栽培において低頻度ながら雌花と雄花を着生する株が出現することがあり,このような株は間性株と呼ばれている。ホウレンンウにおける性分化の遺伝的背景あるいは雌雄性の発現機構については殆ど明らかにされていない。それゆえ,雌性および雄性系統の計画的な作出は現時点では極めて困難である。そこで,組織培養法を利用して,雌雄性が明らかとなったホウレンソウの株から再生個体を増殖させる技術を確立した。 1, ホウレンソウの種子由来植物を培養し,通常の組織培養に用いるガラス器のなかで効率良く開花させることに成功した。その結果,発育の比較的早い段階での雌雄性の判定が可能となり,あわせてホウレンソウの生活環を無菌培養環境で完了させることができた。 2, 既知の植物生長調節物質(IAA,IBA,GA3,BA)は,試みた濃度の範囲内では性を決定する要因とはなりえなかった。 3, 得られた個体から根組織片を採取し,組織培養によって不定胚を誘導し,植物体に育成した。組織片を採取する親株として,雌株,雄株および間性株を用いたが,親株の性にかかわらず,いずれの組織片からも効率よく植物体させることができた。 4, 現在,雌性,雄性および間性株由来の組織片を起源とする復元個体が開花時期にあり,それらの性発現について継続して検討しているところである。解剖顕微鏡および走査型電子顕微鏡による比較では,再生個体の花器の形態は組織供与体のそれと異なることはなかった。 5, さらに効率良く再分化個体を得るために,培養における植物ホルモン要求性について検討した。その結果,カルス形成の際にエチレンを与え,胚分化の際にエチレン作用を阻害することにより,胚形成頻度が改善されることが明かとなった。
|