研究概要 |
タバコ培養細胞BY-2をホウ素欠除培地に移し,細胞の生死を二酢酸フルオレセイン/ヨウ化プロピジウム二重染色により観察した.9時間後から対照に比べて死細胞が増加し始め,36時間後には80%以上の細胞が死んでいた.また処理3時間後では見かけ上死細胞は増加していないにもかかわらず,この時点でホウ素を再添加しても36時間後の死細胞の割合は対照より高くなっていた.このことはホウ素欠乏による細胞の死は3時間以内に決定される不可逆的過程であることを示唆する. 死細胞では細胞質が収縮し細胞壁と分離していた.ヨウ化プロピジウム(Pl)による染色は細胞質全体にわたっており核の凝縮や変形は認められなかった.一方終濃度30mMの過酸化水素を培地に添加した場合,細胞質はPlでほとんど染色されず収縮も認められなかったが,核は凝縮しておりPlで強く染色された.過酸化水素は種々の植物細胞でプログラム細胞死を誘導すると考えられているが,ホウ素欠乏による細胞死はこれとは異なる機構で進行することが示唆された. ホウ素欠乏による細胞死の機構を明らかにするため,欠除処理で誘導される遺伝子をディファレンシャルディスプレイ法により検索した.障害の最初期段階で発現する遺伝子を同定するために,まず処理開始後3時間,ついで6時間までに特異的に発現する遺伝子を検索したが,処理・対照間で差を見いだすことはできなかった.そこで欠除処理時間を18時間まで延長したところ,欠除処理細胞に特異的な遺伝子の断片が複数個検出された.現在これらの遺伝子のクローニングを進行中である.
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