研究概要 |
菌根菌資材施用下での根圏における重金属元素を含む各種養分の動態について検討するために,ヒマワリを供試しリゾボックス装置を用いた栽培試験を行った.菌根菌資材の施用は,植物の生育を低下させること無く各種元素含有率を上昇させた.また,根圏土壌中の各種水溶性成分を分析した結果,AM菌あるいは菌根に由来する特異的な水溶性低分子有機酸の存在や水溶性低分子有機酸含量の増大は観察されなかったが,AM菌に由来すると考えられるフォスフォモノエステラーゼの作用で難溶性リン酸が可溶化し,根圏土壌中の水溶性リン酸含量の増加が生じ,植物によるP吸収量が増加することが示された.さらに,この可溶化の際に,難溶性リン酸に吸着・吸蔵されていたZn,Feといった重金属元素が同時に根圏土壌に放出され,水溶性含量の上昇と,植物による吸収量の増加が生じると推察された.以上の結果から,菌根菌資材を適切に使用することで,土壌中の蓄積養分の有効的な利用に役立つと考えられた. 一方,マレーシア国サラワク州のニア森林研究所にて行なわれた,「菌根木を利用した菌根菌の伝播試験」で得られた苗を用いて,苗の植栽密度と菌根木からの距離が菌根形成率,生長,各種元素吸収量に及ぼす影響を調査した.この実験では,土壌が貧栄養状態であったため,植物による重金属元素の吸収量が少なく,また,処理区間での差異も小さく,土壌中での重金属元素の動態を解明するには至らなかった.しかし,菌根形成率の高い苗では,根のP含量が高い傾向が伺え,貧栄養の育苗土壌であっても,菌根木の有効性があることが示唆された.今後,菌根菌が苗に対して寄生的に働かないような育苗土壌環境について検討し,その条件下で苗の植栽密度などについて再検討することが必要と考えられた.
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