研究概要 |
ジャガイモ塊茎にβ-1,3-オリゴグルコサッカライド(オリゴ糖)をエリシターとして処理するとフェノール性のアミド化合物p-クマロイルオクトパミン(PCO)が顕著に生成する。本研究ではこのオリゴ糖処理によるPCO誘導に関し以下のことを明らかにした。1)PCO誘導は収集したジャガイモの主要品種のいずれの塊茎組織においても認められ,品種には依存しないことがわかった。2)重水素標識化合物を用いた取り込み実験より,誘導されるPCOのオクトパミン部分はチロシンから生合成されることが判明した。またPCOの前駆体と考えられるチラミンの組織内濃度を定量したところオリゴ糖エリシター処理による上昇が認められ,オクトパミンの組織内濃度には著変が認めらなかったことからPCOは,エリシター刺激を受けたジャガイモ組織内でチロシンが脱炭酸してチラミンとなり,p-クマロイルCoAと縮合した後,酸化されて生成するものと考えられた。3)PCO生合成に関与すると考えられるphenylalanine ammonia lyase,4-hydroxycinnamic acid:CoA ligase,tyramine hydroxycinnamoryl CoA transferaseおよびtyrosine decarboxylaseの活性はいずれもオリゴ糖エリシター処理により増大し,PCOの誘導がde novo合成によることを示した。4)エリシター処理と同時に活性酸素の捕捉剤であるtironあるいはn-propyl gallateを処理するとPCOの誘導が阻害された。またNADPHオキシダーゼ阻害剤であるdiphenylene iodoniumを処理した場合にもPCOの誘導の阻害が見られた。この結果から,オリゴ糖エリシターによるPCOの誘導には原形質膜に存在するNADPHオキシダーゼの作用で生成する活性酸素種が関与していることが明らかとなった。
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