研究概要 |
本研究は,抗動脈硬化作用で中心的な役割を果たしているHDLの代謝系で,これに関与するLCAT反応の機構と,酸化脂質に対してのLCATの作用およびLCA活性に及ぼす酸化脂質の影響を明らかにする目的で行い,以下の結果を得た。 1) LCAT活性は基質リン脂質の酸化によって大きく低下すること。 2) 基質自体の酸化の場合以外に,酸化LDL,酸化HDLが反応系に存在することによっても活性は強く阻害されること。 3) 基質酸化ステロールは程度の差はあるものの,LCATによってエステル化されること。 4) ラジカル開始剤であるAAPHをラットに腹腔内投与し,生体内でリポタンパク質を酸化した場合,LCAT活性は低下が起こること,この低下が抗酸化ビタミンであるビタミンC,ビタミンEの投与によって防御され得ることを認め,生体内でも脂質過酸化の程度によってLCAT活性が変動することを示した。 以上のように,本研究は血漿中でのリポタンパク質の酸化が,LCATによるコレステロールエステル化を抑制し,抗動脈硬化系であるコレステロール逆転送系の停滞をもたらす可能性を示したこと,また,LCATによる酸化ステロールのエステル化作用を明らかにしたことにより,LCATが酸化ステロールの生体からの排除の促進,および毒性軽減に関与している可能性を示唆した。 HDLによる脂質逆転送系は生体内での最も優れた動脈硬化抑制機構として機能しており,本研究はLCATの新しい基質特異性を見い出し,酸化リポタンパク質の新しい生理作用を発見し,解析したもので,抗動脈硬化機構の解明の一助になるものと考えられる。
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