研究概要 |
多くの広葉樹二次林は、伐採後の再生年数が数十年しか経過していないために,天然林に比べて階層構造は未発達で林冠層はほぼ完全に閉鎖している.そのために、天然林のモザイク構造に依存して出現するような生物相の回復が遅れていると考えられる。本研究は、生物的多様性を意識した落葉広葉樹二次林の施業を行うための基礎的な知見の蓄積とともに、実用的な技術を開発することを目的とした。 人工ギャップの創出によって林床の植物相がどのように変化するか,また,林冠構造の複雑な天然林では林床の稚樹や小動物がどのように反応しているのかを明らかにした。具体的には,(1)落葉広葉樹二次林の人工ギャップに出現した維管束植物に対する光と土壌攪乱の影響,(2)森林の更新過程で生ずる森林構造の異質性がそこに生息する野ネズミの生息場所選択に与える影響,(3)ブナ-スギ天然林の林冠ギャップ内外における高木種稚樹個体群の更新特性を明らかにした。また,落葉広葉樹二次林に人工ギャップを創出することによる林床の生物相への影響を予測するために,(4)人工ギャップ創出前に全天空写真を用いて林床の光環境の変化を予測する新たな手法の提案と,(5)その手法を用いたナラ林での適用例を示した。さらに,ブナ林域の森林景観が森林施業によって改変される過程で,(6)景観構造の多様性の変化に影響を与える自然的・社会的要因を明らかにし,(7)ブナ林から変化したそれぞれの森林景観に特異的に出現する林床植物種群とそれらが示す植物種多様性,(8)ブナ天然林における皆伐母樹保残施業が林床植物種多様性に及ぼす影響を明らかにした。 短かい研究期間でかつ限られた予算にもかかわらず多くの研究成果が得られた。今後も生物的多様性の高い森林を維持するための管理手法に関する研究をさらに発展的に実施する予定である。
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