研究概要 |
樹木精油中の主要成分を比較的簡単な反応で化学変換することにより精油自身の生物活性、特にシロアリ,カビに対する殺蟻活性・抗菌活性を高めようと試みた。樹木精油に多く含まれるα-ピネンを希硫酸で処理すると、約22モル%の収率で殺蟻活性を有するα-テルピネオールが生成した。更に、幾つかのスルホン酸でα-ピネンを処理すると硫酸処理に比べてα-テルピネオールの収率が著しく向上することを明らかにした。その中で,p-フェノールスルホン酸による処理がα-テルピネオールの生成に最も適していることがわかった。その他のテルペン類のスルホン酸処理を行なった結果,β-ピネンにおいて最もα-テルピネオール生成量が多く,その収量は生成物当たり最高約83モル%に達した。更に,マツ、スギ、ヒノキの精油のp-フェノールスルホン酸による加水分解反応を検討した結果、マツ中のα-ピネンはα-テルピネオールに変化していることが分かった。しかし,市販のターペンチンおよびスギ精油では元々のα-ピネン、β-ピネンの存在量が少ないために、α-テルピネオールの生成量はそれほど多くなかった。ヒノキ葉精油ではα-ピネンの代わりにサビネンの存在量が多く、加水分解反応により4-テルピネオールが多く生成することが分かった。反応時間は10時間以内が適しており,それ以上では好ましくない副反応が進行した。これらの反応生成物を用いて,イエシロアリ,ヤマトシロアリに対する殺蟻活性試験とJISの防カビ試験に指定されている5種類のカビに対する抗菌活性試験を行なった。殺蟻活性は反応時間の増加に伴い,著しく増大した。ただし,スギの精油などのようにα-ピネンなどの成分量が元々少ないものでは,殺蟻活性成分であるα-テルピネオールなどの生成量も少なく,そのために殺蟻活性もそれほど向上しなかった。抗菌活性も,殺蟻活性と同様に加水分解処理により著しく向上した。
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