研究概要 |
卵巣内の排卵後濾胞の出現割合で示される産卵頻度および一回あたりの産卵数から、沖合域に生息する本種が沿岸域に生息する本種よりも,一定期間内により多くの卵を産出することが明らかになった。これは、沖合の生息する個体群は、エネルギーをより繁殖に当て,卵の数を多くして生残りをはかることを意味している。さらに,8〜22℃の広い温度範囲で同程度の産卵が行われること、そして、一回当り産卵数は水温に比例して増加することが分かった。カタクチイワシは環境に対応して産卵特性を変えながら、沖合の広い範囲を産卵域として利用可能にしている。このような産卵生態の違いに対して,mtDNAの分析結果は,九州の北岸および西岸から、本州・北海道の太平洋岸の沿岸および沖合にかけて生息する本種には、明確に系群として分けられるような遺伝的差異は存在しないことを示唆した。 カタクチイワシ仔稚魚は東経160度までの調査海域に広く分布し,沿岸域と同程度に成長しつつはるか東方の沖合に分布を広げていくと推定された。死亡率は成長とともに小さくなり、移行域沖合の体長の大きい仔稚魚で最小であった。カタクチイワシ仔稚魚の消化管内容物を分析した結果、空胃率は30mm以下の仔魚ではきわめて高かったが35mmを超える稚魚になると急激に低下した。餌生物はカイアシ類が優占的であったが,体長の増加に伴って暖海外洋性のサフィリナ属カイアシ類や端脚類などの大型動物プランクトンが特徴的に出現した。さらに,55mmを超える大型稚魚の胃からカタクチイワシ仔魚が確認された。
|