研究概要 |
産卵ポテンシャル(Spawning Potential,SP)による管理では,再生産関係の情報は不必要で,資源評価値もすべての年齢や年のものが必要ではない。SPR型はある年に加入した年級(あるいはある年のバイオマス)を対象とし密度効果を考慮したF一定平衡管理を志向している。SP型は各年級の将来にわたる産卵数の合計値を対象とした管理であり,ある年に存在した全ての年級に拡張した弾力的な目標管理である。産卵ポテシシャルによる資源管理の特徴は,現在の資源状態から許容される漁獲量を資源の生涯に分散して利用する点にある。将来の漁獲予定資源は,実際に漁獲を行う時点の資源状態を考慮に入れた上で,獲る・獲らないを再決定できる。漁獲が予定されていた資源を産卵に回すことで,予測不可能な資源状態の悪化にも対応できる。長期的視野から産卵を確保することにより,資源変動の不確実性に起因する乱獲を回避もしくは軽減し,資源と漁業を安定させることができる。 対象資源の資源評価(資源量推定)値が得られる状況では,産卵ポテンシャルに基いた資源管理が大いに実力を発揮することが力説されている。いくつかの知見や文献から総合的に判断すると,豊漁時代の約1/2水準の産卵ポテンシャルまで回復させる資源管理計画が大枠として推薦でき,日本のTAC制度への導入さらにTAC制からTASP(Total Allowable Spawning Potential)制への移行も期待されている。具体的にどの程度の種苗数を放流すれば,どれだけTACを上積みできるかという定量的かつ絶対的な比較には,あるいは生態系の保全や管理(ひいては管理戦略におけるリスク評価)という広い視野からも産卵ポテンシャルSPの概念は重要である。資源が増加(あるいは減少)傾向にあることを加味した加入あたり実質産卵量(real Spawning Per Recruitment,rSPR)の考え方を導入すれば,再生産関係が既知という条件下で,年あたり資源増加目標(何年で何倍にしたいという計画)を立てることによって資源を回復させる具体的な管理が実行できる。
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