研究概要 |
本研究の目的は,植物細胞の分化・成長に係わる可能性があるN-グリカン遊離酵素(N-glycan releasing enzymes:NRE)の生理機能を明らかにすることにある。これまでに2種の植物NREについては,種々の植物から精製後,詳細な基質特性を明かにし,糖鎖工学における有用なツールと成りうることを示してきた。今年度はこれらNREの遺伝子クローニングに向け,酵素蛋白質の精製効率を高めるための新規アフィニティークロマトグラフィーを確立するとともに,植物細胞の分化・成長段階でNREにより誘導されたと考えられる遊離N-グリカンの構造特性を明らかにした。 トマト果実あるいは銀杏種子抽出物から部分精製した2種のendo-β-GlcNAc-ase(endo-LE,endo-GB)をcm-YI-Sepharoseカラム(20mM MES,pH6.5)に供与したところ,両エンドグリコシダーゼはともにcm-YI上のハイマンノース型N-グリカンに結合し,酵素活性は緩衝液のNaCl濃度を上昇させることによりカラムから回収された。今回開発したcm-YI-Sepharoseアフィニティークロマトとイオン交換クロマトを併用することにより,endo-LEを1700倍に,またendo-GB(63kDa)を電気泳動的に均一に精製することができた。我々の既報の精製法に比べ,エンドグリコシダーゼを比較的安定にかつ効率よく精製することが可能になった。現在,アフィニティークロマトのみによる酵素精製法の確立を目指し,より効率的な溶出条件の検討を行っている。次に,植物細胞の分化・成長に係わるNREの生理機能解明の一環として,大豆実生胚軸,登熟期銀杏種子,タケノコ等に存在する遊離N-グリカンの構造解析を行った。その結果,いずれの供試植物からも2種NREにより誘導されたと考えられる遊離N-グリカンがμM濃度検出され,ハイマンノース型糖鎖はエンドグリコシダーゼにより,植物複合型糖鎖はPNGaseにより誘導されていることが明らかとなった。しかしながら,構造カテゴリー別に存在量を比較すると,分化・成長中の植物細胞中にはハイマンノース型構造が植物複合型構造の20〜50倍量程度多く存在していることから,遊離ハイマンノース型糖鎖が植物細胞の分化・成長において重要な生理機能を担う可能性が示唆された。一方,構造別に存在量を比較すると,大豆実生胚軸中にはMan5GlcNAc1構造が,タケノコあるいは登熟銀杏種子中にはMan8GlcNAc1構造の糖鎖が比較的高い割合を占めていた。これら遊離ハイマンノース型糖鎖の構造はいずれもゴルジ装置内での糖鎖プロセシング経路中で見られる構造であり,Manα1→6(Manα1→3)Manα1→6(Manα1→3)Manβ1→4GlcNAcを母核構造としていた。
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