研究概要 |
ダイオキシン類(dioxins)は環境を汚染し、発癌プロモータ作用・免疫毒性作用・生殖毒性作用・内分泌障害作用など種々の毒性を持つことが知られている。ダイオキシン類の毒性作用の多くはアリル炭化水素受容体(Aryl hydrocarbon receptor,AhRと略、別名ダイオキシン受容体)を介して発現することが多くの状況証拠から推測されてきたが、直接証明はされていなかった。近年この受容体遺伝子のクローニングが成功し、AhR遺伝子を破壊したマウスが作製された。AhR欠損ホモ(AhR-/-)マウスは出生後、発育可能で、ホモ同士の交配により繁殖可能であった。AhR-/-同士を交配し、妊娠12.5日(膣栓発見日を妊娠0日とする)に2,3,7,8匹塩化ジベンゾパラジオキシン(TCDD)を40μg/kg体重の割合で1回強制経口投与し、妊娠18.5日に母体を殺し、胎仔を観察した。野生型同士の交配で同様の実験を行うと、胎仔のほぼ100%に口蓋裂・腎盂拡大が見られたが、AhR-/-同士の交配では、口蓋裂・腎盂拡大とも全く見られなかった。AhR-/-雄と野生型雌の交配では、胎仔の遺伝子型はAhRへテロとなるが、この場合では、TCDDによる胎仔の口蓋裂・腎盂拡大誘発の頻度は、それぞれ24%,100%であった。本実験により、ダイオキシンによる口蓋裂・腎盂拡大はAh受容体を介することが明らかになった。 さらに、TCDDによる口蓋裂・腎盂拡大誘発に及ぼす用量-反応関係を野生型胎仔とAhRヘテロ胎仔とで比較した。用量は156,625ng/kg,2.5,10,40,80μg/kgを用いた。AhRヘテロ胎仔もTCDDの用量に依存して口蓋裂・腎盂拡大が誘発されるが、その感受性は野生型よりも低いことが明らかとなった。
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