研究概要 |
細胞外ATPによる遅延整流性カリウム電流(I_K)の増大反応に関して,モルモット心房筋ならびに心室筋細胞にパッチクランプ法を適用して以下の解析を行った. 1. ATPにより増大したI_K成分について (1) ATPにより増大したI_Kの脱分極パルス中に活性化される電流の大きさと再分極させたときに発生する末尾電流の大きさの比(envelope test)はパルスの長さに関わらずほぼ一定(約0.4)であった. (2) ATPはE-4031感受性成分として求めた急速活性型I_K(I_<Kr>)の大きさに影響を与えずにI_Kを増大させた. これらの実験結果より,ATPはI_<Kr>には影響を与えずに,緩徐活性型I_K(I_<Ks>)を選択的に増大させると考えられた. 2. 細胞外ATPによるI_<Ks>の増大反応に関わる情報伝達機構について (1) アゴニストの有効性の順位(ATP≧adenosine 5'-O-(3-thiotriphosphate)(ATP-γS)>ADP>>adenosine)からP_<2->プリン作動性受容体(P_<2->受容体)の関与が示唆された. (2) P_<2->受容体を介する増大反応は細胞にguanosine 5'-O-(2-thiodiphosphate)(GDPβS,1mM)を負荷するとほとんど消失したが,百日咳毒素処理によっては影響を受けなかったため,百日咳毒素非感受性G蛋白の関与が考えられた.なお,G蛋白の関与があることにより,P_<2->受容体はG蛋白共役型であるP2Y型であることも示唆された. (3) ATPγS(5mM)の細胞内負荷によりATPによる増大反応は不可逆的となったため,何らかの蛋白燐酸化反応の関与が示唆された.種々の蛋白キナーゼ抑制剤(H-7,H-8,genistein)のなかで,genistein(50μM)のみが部分的にではあるがATPの作用を抑えたため,チロシンキナーゼの関与が示唆された. 以上,1および2の実験結果により,ATPはP2Y型受容体を刺激して何らかのチロシンキナーゼを介する蛋白燐酸化反応を引き起こしI_<KS>を増大させることが示唆された.
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