研究概要 |
血漿浸透圧上昇は,唾液や粘液の分泌の減少をもたらし,これらの分泌減少により口渇感が発生すると考えられる.しかし,中枢性体液調節機構と唾液分泌調節系との関連はあまりよく解かっていない.中枢における浸透圧受容機構は,齧歯類を用いた実験によりあきらかになってきたが,体液調節機構と唾液分泌に関連する研究の多くは,ヒトをはじめ,牛・ヒツジ・ヤギ・イヌ等の大きな動物でなされてきた経緯がある.浸透圧受容機構の解明が進んだラットを用いて,これらの機構が唾液分泌にどのように影響を与えるか調べた.実験では,一定量の固形飼料を動物に与え,摂食に要する時間・その時に分泌される唾液量および唾液分泌速度を観察し,これらの値が(i)24時間絶水した場合,(ii)腹腔内に食塩水(0.9%および5%)を注入した場合,(iii)側脳室内に高張液(1M NaClおよび0.9Mマニトール,コントロールとして0.15MのNaCl)を注入した場合に分けて調べた.唾液は,自由行動下のラットの耳下腺導管に装着したポリエチレンチューブより,採取した.ただし,測定期間中は,ラットは,水を自由に摂取できないような状態においた.5%NaCl腹腔内投与および1M NaClおよび0.9Mマニトール脳室内投与により,1個の固形飼料を食べるのに要する時間は延長した.その間に分泌される反射唾液量は,変化がないか,わずかに増加した.唾液分泌速度は,投与直後に一過性に減少した.一方,絶水したラットでは,最初の数個の固形飼料の摂取時に,反射唾液量および唾液分泌速度の増加が観察された.以上のことから,高張液の急性投与により,中枢に存在する浸透圧受容器が活性化され,耳下腺からの反射唾液の分泌が減少することが示唆された.また,脱水時に反射唾液の分泌が亢進したことは,味覚や触覚等の要因が複雑に係わっていると考えられる.
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