研究概要 |
タンパク欠乏食で動物を飼育すると,骨格筋量は減少し,低栄養性の筋萎縮が起こるが,同時に運動を行わせることにより萎縮が抑制される.このような運動による筋萎縮抑制効果を筋線維形態から明らかにするために,ラットのひらめ筋(SOL)と長指伸筋(EDL)を用いて実験を行った. 離乳直後の雌ラットを用いて,自発運動を行わせる運動群(E)と行わせない対照群(C)に分けた.各群が7週令に達した時,さらに標準タンパク食(SP)群と低タンパク食(LP)群とに分け,各々の食餌をadlib.で与え,5週間飼育した.飼育後,各群のSOLとEDLを切り出し重量計測後,左側を総線維数の計数に,右側を線維組成と横断面積の計測に用いた.線維組成はATPase染色とSDH(クエン酸脱水素酵素)染色から,タイプI,IIA,IIB,の各線維に分類した.面積は光顕下で画像解析システムにより計測した.得られた結果は以下の通りである. LPにより筋重量がSOLでは17%,EDLでは12%減少したが,運動によりともに重量が回復し,特にSOLは対照値よりも増加した.SOLの総線維数はLPにより有意に減少し,また面積は主要線維であるタイプIが有意に減少し小さくなったが,運動により数も大きさも増加し,対照値にまで回復した.LPによる線維組成には変化はなかったが,運動によりタイプIが増加した.一方,EDLでは総線維数はLPや運動により変化せず,また線維組成も主要線維であるIIA,IIBの大きさもあまり影響されなかった.ただタイプIの面積はLPにより減少した.以上の結果から低タンパク食による線維形態変化はひらめ筋の方が長指伸筋よりも大きいことが判った.すなわち,低タンパク食により主に筋線維タイプIの萎縮が起こり,総数も減少した.しかし,この萎縮は運動により抑制され,総数も完全に回復することが明らかにされた.したがって,成長後の動物が厳しいタンパク欠乏状態におかれても,エネルギー供給が十分であれば,運動による筋肥大は特にタイプI線維において十分に起こりうると考えられた.さらに,この結果から,低タンパク食であるにもかかわらず筋骨たくましいパプア・ニューギニア高地人の低タンパク適応機構の成立過程に生活習慣としての運動が大きく関与することが示唆された.
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