研究概要 |
Ca^<2+>/カルモデュリン依存性プロテインキナーゼII(CaMキナーゼII)の286番目のスレオニン(Thr-286)の自己燐酸化反応は酵素をCa^<2+>依存性型からCa^<2+>非依存性型(恒常的活性型)に変換する.このCa^<2+>非依存性活性の上昇がシナプス伝達の促通に関与し,CaMキナーゼIIが記憶の素子として働くという仮説が提唱されている.これまでに海馬の長期増強(LTP)においてCaMキナーゼIIの自己燐酸化反応とCa^<2+>非依存性活性の上昇を確認した.本研究ではThr-286の自己燐酸化反応を特異的に認識する抗体を作製して,免疫組織化学的に自己燐酸化反応の亢進を確認した.LTPの誘発に伴って,CAl錐体細胞の細胞体と樹状突起で有意な免疫染色性の上昇が見られた.さらに,共焦点レーザー顕微鏡で調べると活性型CaMキナーゼIIの局在はNMDA受容体の発現部位とよく一致していた.次に,自己燐酸化反応はプロテインホスファターゼによっても調節されことから,LTP発現に伴うホスファターゼ活性の変化について調べた.LTP発現に伴って,プロテインホスファターゼ2Aの活性が有意に減少していた.このとき,プロテインホスファターゼ2Cの活性には変化は見られなかった.in vitroおよびin vivoの研究からプロテインホスファターゼ2AのB′αサブユニットが直接CaMキナーゼIIによって燐酸化され,プロテインホスファターゼ活性が減少することが明らかとなった.これらの結果はCaMキナーゼIIによるプロテインホスファターゼ2Aの調節がLTPにおけるCaMキナーゼIIの恒常的活性化反応のみならず可塑性発現に関与するシナプス蛋白の燐酸化反応にも関与することを示唆している.
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