研究概要 |
カンナビノイドは大麻に含まれる精神活性物質であり,その特異的受容体が脳や種々の臓器で発現している。カンナビノイド受容体の内因性リガンドとして見出されたアナンダミド(アラキドノイルエタノールアミド)は,アラキドン酸とエタノールアミンに加水分解されてそのカンナビノイド様生物活性を失う。この反応を触媒するアナンダミド加水分解酵素の酵素学的性質を明らかにするために,ラット肝由来の酵素に対するcDNAをCOS-7細胞に導入し,リコンビナント酵素を発現させた。酵素はアナンダミド加水分解活性に加えて,その逆反応のアラキドン酸とエタノールアミンの脱水縮合によるアナンダミド合成活性を示した。両反応はコントロールのCOS-7細胞では認められなかった。以上の結果からアナンダミド加水分解反応の可逆性が実証された。しかしながら,エタノールアミンに対する高いKm値を考えると,酵素は生理的条件下ではアナンダミド合成酵素としてではなく,加水分解酵素として働いているものと考えられた。また,このようなアミダーゼ活性に加えて,同じ酵素がアラキドン酸メチルエステルを分解するエステラーゼ活性を持つことを見出した。そこで,カンナビノイド受容体のもうひとつの内因性リガンドとして知られる2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)のエステル結合を同酵素が水解するかどうか検討した。その結果,酵素はアナンダミドの約4倍の速度で2-AGを水解し,2-AGに対するKm値は約6μMと低く,至適pHは10であった。コントロール細胞では2-AGの水解活性はほとんど検出されなかった。アナンダミドの水解を阻害する2種類の化合物は2-AGの水解反応を同程度阻害し,またアナンダミドは濃度依存的に2-AGの水解反応を阻害した。以上の結果より,アナンダミドと2-AGは同一酵素によって分解されうることが明らかとなった。
|