研究概要 |
今回の研究では抗癌剤耐性癌細胞の耐性解除を転写因子を抑制あるいは活性化する薬剤を用いてその耐性解除効果を検討した。一般に抗癌剤感受性株ではTNFやIFNの添加でNF-kBの活性の上昇が見られたが、同時にapoptosisが誘導され細胞は死滅した。NF-kBの活性を抑制するとされるpentoxphilline、aspirin, acetyl cysteineを用いるとNF-kBの活性は抑制されたが、同じようにapoptosisの誘導が見られた。耐性株では刺激市内状態でもNF-kBの活性上昇があり、pentoxphilline、aspirin, acetyl cysteineの添加によりその活性は抑制され、中等度の耐性解除が観察されたが耐性解除の程度は十分ではなかった。AraC耐性株ではNF-kBのみならず、SP-1,SP-2の活性上昇も同時に見られ、Arac耐性機序において何らかの役割を果たしていると考えられるが、これらの活性はpentoxphillineとFK506によって抑制されたが、耐性度の低下はわずかであった。さて、抗癌剤耐性株では核内・細胞質内の熱ショック蛋白(以下HSP)量の増加が見られ、抗癌剤耐性機構の一つとして役割を果たしていると思われるが、pentoxphillineとFK506の添加ではHSPの発現現象が見られ、HSPの転写抑制によりその効果が発現されると考えられる。今後、さらにこの効果が転写因子を介するのかあるいはこれらの薬剤のRNAやDNAに対する直接効果によるのかを解析する必要がある。以上のようにこれまで検討したいくつかの転写因子を抑制あるいは活性化する薬剤は直接あるいは間接的な抗癌剤耐性解除効果が見られ抗癌剤との併用でよりよい治療効果を期待できると思われるが、より転写因子特異性が高く、かつ効果が強力な薬剤の開発が望まれる。
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