研究概要 |
本研究では分子遺伝学的な手法を用い、副甲状腺機能亢進症における非腫瘍性の過形成と腫瘍性の腺腫との鑑別及びその責任遺伝子の異常を検討した。その結果 1. 副甲状腺ホルモン蛋白は腫瘍性病変では一般的にhomogeneousな発現に対して、非腫瘍性病変ではheterogeneousな発現が多く見られた。 2. 遺伝子clonalityの検索より、腺腫のほとんどはmonoclonalで腫瘍性性格を確認できた。逆に、従来の基準で過形成と診断されていた1次性(2/2例)、2次性のもの(19/27腺,70.4%)のいずれにも高頻度にmonoclonarityが認められた。2次性でpolyclonalな結節から腫瘍性性格をもつmonoclonalな病変への移行が考えられた。 3. 各病態にはそれぞれ異なる遺伝子の異常が明らかになった. 1) p53遺伝子について、副甲状腺癌のみならず、良性の副甲状腺腺腫にもp53蛋白の過剰発現(4/32例)、somatic mutation(R290H)、polymorphism(L252L,R72P)とLOHを検出され、特に強い核多型性を示す腺腫(2/8例)との関連を示唆した。 2) MEN1遺伝子の(menin)異常はMEN1と内分泌腫瘍(副甲状腺腺腫と膵内分泌腫瘍)両者と共通する(A340T,A541T,T429K,D418D,V367V)。しかしその頻度は副甲状腺腺腫の20%に過ぎない。 3) MEN1遺伝子と違って、ret遺伝子の異常は散発性甲状腺髄様癌の32.5%(13/40)に認められたが、副甲状腺腺腫(16例)には検出されなかった。 4) 2次性副甲状腺機能亢進症では、clonalityの検討で、高頻度のmonoclonalな増殖が認められたが、p53,MEN1,1p35-36等の遺伝子異常はまったく検出されなかった。 以上の結果から、副甲状腺腺腫はmonoclonalな腫瘍で、複数の遺伝子異常が関与することが明らかになった。2次性副甲状腺機能亢進症では、過形成から腫瘍化へいくつかの異なる過程が存在することを示した.その腫瘍性と非腫瘍性の増殖の鑑別にホルモン蛋白の分布pattern、clonalityまたは遺伝子の検索が補助的に役立つと思われた.
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