研究概要 |
分化型脂肪肉腫の腫瘍発生に関わる分子機構をarchitectural factorの一つであるHMGI-C遺伝子の発現亢進とその分子機構ならびにHMGI-Cの間葉系腫瘍発生における役割に注目し,以下の項目に関し検討した。 1. HMGI-C遺伝子の蛋白およびメッセージレベルでの発現の検討 (1) 免疫染色およびWestern blot法による蛋白レベルでの発現解析 (2) In situ hybridization(ISH)法によるによるメッセージ発現の解析 2. IMGI-C遺伝子の発現亢進機構に関する検討 (1) Nested reverse transcription-polymerase chain reaction(nested RT-PCR)法による解析 (2) Southern blot法による遺伝子増幅の解析 (3) 3'rapid amplification of cDNA ends(3'RACE)PCRによるHMGI-C cDNAのクローニングとDNA配列の決定によるHMGI-C遺伝子の構造異常の検索 3. HMGI-C遺伝子のノックアウトマウス由来の線維芽細胞を用いたHMGI-C遺伝子の腫瘍発生における機能に関する検討 分化型脂肪肉腫細胞では他の間葉系腫瘍に比べ明らかに高頻度(21/21例)かつ強いHMGl-C遺伝子発現を蛋白及びメッセージレベルで認めた.分化型脂肪肉腫内に発生した高悪性脱分化型脂肪肉腫では陰性化していた.Western blot解析では,分化型脂肪肉腫において発現されるHMGI-C遺伝子の分子量に異常はなく,nested RT-PCRでもcoding領域には明かな構造異常は認めなかった.Southern blotによる解析でも,HMGI-C遺伝子の増幅は観察されず,3'RACE法による解析でもHMGI-C遺伝子内における新たなキメラ遺伝子形成は現在まで検出されていない.HMGI-C遺伝子のノックアウトマウス由来の線維芽細胞を用いたin vitroのデータでは,HMGI-C-/-fibroblastは高頻度にtransformし,このtransformationはHMGI-C cDNAの導入により抑制された.以上の所見から,分化型脂肪肉腫の腫瘍発生にHMGI-C遺伝子の活性化が関わることが明かとなり,発現されたHMGI-Cは高悪性腫瘍へのプログレッションを阻止する役割を演じている可能性が示唆さた.分化型脂肪肉腫におけるHMGI-Cの活性化には,3'UTR AUUUA motifsあるいはプロモーター部の異常が関与している可能性が考えられ,継続して解析中である.
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