研究概要 |
本研究では,未知の点の多い軟部腫瘍の細胞遺伝学的特性を明らかにし,病理診断の精度向上に役立つ基礎的なデータを得ることを目的として,種々の軟部腫瘍の細胞培養,染色体分析および分子生物学的分析を行い,次の成績を得た. 1.低悪性度軟部腫瘍における余剰環状染色体 本研究で検索した骨軟部腫瘍103例のうち余剰環状染色体が検出されたのは,高分化脂肪肉腫,軽度の異型性を示す筋肉内脂肪腫および隆起性皮膚線維肉腫のみであった.これらの成績から本染色体異常が低悪性度ないし良悪性の境界病変に特徴的であることが推測された.FISHの成績から高分化脂肪肉腫では12番染色体の異常が腫瘍の発生に関係している可能性が考えられた. 2.滑膜肉腫 滑膜肉腫synovial sarcomaは四肢の軟部組織に好発するが,我々は前立腺での単相型滑膜肉腫の発生を初めて報告した.この例では特異的染色体転座t(X;18)(p11.2;q11.2)とキメラ遺伝子SYT-SSX2を証明することにより滑膜肉腫の診断を確定し,前立腺にも本肉腫が生ずることを初めて明らかにした. 3.末梢性未分化神経外胚葉性腫瘍とEwing肉腫 我々は腎のPNETを検索し,染色体および遺伝子分析によって診断を確定することができた.腎のPNETはWilms腫瘍との鑑別が困難であったが,t(11;22)(q24;q12)とキメラ遺伝子EWS-FLI1の検出により診断が確立された. 4.軟部組織腫瘍の病理診断における間期核FISHの応用 我々は小円形細胞腫瘍の間期核をコスミドDNAプローブを用いたfluorescence in situ hybridization(FISH)により検索し,病理診断への応用について検討した.PNET4例,Ewing肉腫2例において腫瘍細胞の間期核を単離し,FISHによってEWSの切断とEWS-FLI1キメラを検出し,診断に有用なデータを得た.
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