研究概要 |
細胞膜表面の糖鎖は発生や分化,癌化に伴って著しく変化し,しかもこれら糖鎖の多くは特異的な抗体によって認識されることから癌特異的あるいは癌胎児性抗原とみなすことができる.最近,sialyl Lewis Xを発現した大腸癌はSialyl Lewis Xを発現していない大腸癌にくらべて有意に肝転移の率が高く,また予後も不良であることが示された. 糖鎖は一連の糖転移酵素の作用により生合成されることから,本研究では大腸癌の悪性度を規定する糖転移酵素の候補分子としてムチン型糖鎖の生合成を規定するコア2β1,6-N-アセチルグルコサミン転移酵素(C2GnT)とアスパラギン結合型糖鎖上に存在するN-アセチルラクトサミンの生合成を規定するβ1,4-ガラクトース転移酵素-l(β4GalT-l)にターゲットを絞り,大腸癌組織におけるこれら糖転移酵素の発現とその臨床病理学的意義を検討した.その結果,大腸腺腫から大腸癌に進展する過程でβ4GalT-lの発現レベルは有意に増強し,また大腸癌の中でもC2GnTを発現している症例は発現していない症例に比べて有意に脈管侵襲が強く,また進達度も深い傾向にあることが明らかになった.以上より,大腸癌の発生や進展にこれら糖転移酵素の発現が深く関与している可能性が示唆された.
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