研究概要 |
ライム病の起因菌となるポレリア属スピロヘータはマダニを媒介者とする。ボレリアはDNAの多型性により細分化されており、病原細菌としてBorrelia burgdorferi, Borrelia garinii, Borrelia afzeliiの3種が認められており、この他にも人体への病原性は明らかではないが、マダニ媒介性の幾つかの菌群が存在する。ボレリアと媒介マダニの組み合わせ(宿主・寄生体関係)は概ね種特異的であるため、この特異性を規定する要因を解明することを目的として一連の実験を行い、以下の様な結果を得た。1)非特異的な組み合わせでマダニへのボレリア感染を実施したところ、マダニのボレリア感受性には吸血から脱皮への過程で排除と許容という2つの段階があり、感受性を持つマダニが必ずしもベクターとして機能しないということを発見した。2)特異的な組み合わせにおいてマダニの発育経過に伴うボレリアの量的質的変動を観察した。飽血幼虫の体内では休眠期間中に体内でボレリアの増殖が起こり、脱皮を境に若虫では排便により過量の菌が排出され、その後増殖は起こらず、一定量が体内に残存する。残存した菌は脊椎動物への感染性が失われており、若虫が再び吸血を開始すると感染性が急激に復活する。この際、一部の菌体表層蛋白が発現するようになる。3)マダニへの特異性もしくは脊椎動物への感染性を支配する分子は菌体表層蛋白であると想定し、これらをコード化するプラスミドの移入実験を異種ボレリアに対して実施したが、至適な条件を設定することができなかった。4)長野と北海道を対象地としてマダニとボレリアを遺伝子レベルで比較調査したところ、両者に特徴的な塩基置換が認められ、地理的隔離によるマダニとボレリアの共進化を推測できた。
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