研究概要 |
住血吸虫ミラシジウムは体表に存在する無数の繊毛の活発な運動によって、孵化、水中遊泳、中間宿主貝への接近と進入などの特異な行動をおこす。本研究の目的はミラシジウムの行動を制御している体表繊毛の運動制御機構を明らかにすることである。繊毛運動を変容させる外部刺激はいくつかあるが、本研究では浸透圧による繊毛運動制御機構と走化性運動における体表繊毛運動制御機構を追求した。 本研究で得られた主な知見を記す。 1)孵化は低浸透圧への曝露によりミラシジウムの体表繊毛が激しく運動しはじめることと卵殻が膨化することによる。 2)高浸透圧でミラシジウムに虫体のcAMP濃度を上昇させる試薬(8-bromo-cAMP,forskolin,IBMX)を与えると、静止していた繊毛が運動しはじめ、虫体は高浸透圧下でも遊泳する。 3)水中を遊泳中のミラシジウムにAキナーゼ阻害剤(H-88,H-89),K^+チャネルブロッカー(α-dendrotoxin,quinine,TEA、C_s)を与えると、繊毛運動が停止し、虫体は遊泳を停止する。 4)膜透過性cAMPはミラシジウムの中間宿主貝分泌物への走化性行動と全く同じ行動を惹起させる。しかし非膜透過性cAMPではこの反応はおこらない。 5)貝分泌物への走化性はエゼリンで阻害される。 以上の結果より、ミラシジウム体表の繊毛運動制御機構は次の様に考えられる。 ミラシジウム体表には浸透圧レセプターが存在する。低浸透圧に曝されると、レセプターを介してK^+チャネルが開く。K^+の流入はadenyl cycalseを活性化し、cAMP濃度が上昇し、Aキナーゼが活性化し、微小管の滑りが活性化され、繊毛運動が始まる。高浸透圧に曝されるとK^+チャネルが閉じ、cAMP濃度が低下し、繊毛運動は停止する。 一方ミラシジウムの走化性発現には体表繊毛運動の関与は少ない。
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