研究概要 |
我々はH.pylori(HP)の膜に細菌・動物には非常に希なコレステリールグルコシド(CGs)が3種大量に存在することを見出し、構造を決定した。3種のCGsはcholesteryl glucoside(CGL;基本構造物)、CGLに脂肪酸が結合したCAG、CGLにphosphatidyl基が結合したCPGである。5%ウマ血清添加液体振盪培養(微好気チャンバー内)での増殖各時期における脂質変化を検討した。中期増殖期菌体ではCGsのうちCGL・CAGは検出されたが,CPGはほとんど検出されなかった。CPGは後期対数増殖期もしくは定常期初期(これらの時期では菌体はラセン状)から検出されはじめ,減衰期(球状化期)が進行するに従い,大幅に増加した。主要リン脂質であるphosphatidyl ethanolamineは減衰期には大幅に減少していた。HPでは後期対数増殖期以降は脂質代謝に大きな変化が起こっており,正常増殖ラセン状菌体としては中期増殖期菌体を用いることが必要と考えられる。 HP生菌でのsterolと関連物質の取り込みおよびglucosidesの合成能を検討した。HPはfree cholesterol以外の多くのsterolを取り込みglucosideを合成した。しかし,cholesterol esterは全く取り込まず,CGsも合成しなかった。この結果からHPはsterolの3β-ol構造を認識して取り込むと考えられた。さらに3β-ol構造を持つがsterolの骨格部分が開裂しているcholecalciferol(Vitamin D3)を用いて検討した。HPはVitamin D3を取り込んだが,glucosideは合成しなかった。従って,HPのsteryl glucosides合成には骨格部分が重要と思われる。また,このVitamin D3はHPに抗菌性を示し,MICは無血清培地では12.5μg/mlであった。
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