研究概要 |
本研究は,胸腺プレT細胞の増殖と分化におけるストローマ細胞との相互作用とシグナル伝達機構を細胞レベルおよび分子レベルで解明することを目的としている。そのために,我々が樹立したプレT細胞クローンの分化増殖をモデル実験系として解析し結果,以下の成績を得た.プレT細胞株BTK-24はストローマ細胞の存在下にのみ増殖し,ストローマ由来の液性因子や既知のサイト力インではその増殖が維持できない.また増殖にはストローマ細胞との接着が必須であるが,この接着を媒介する分子がVLA-4であることをモノクローナル抗体を作成して確認した.さらに,抗体の特異性の解析からVLA-4/VCAM-1の相互作用がVLA-4/Fibronectinの相互作用よりも重要であることが示された.次に,BTK-24の最適な増殖にはストローマ細胞が産生する液性因子が必要であることからこの因子について解析した結果,透析によって活性が失われること,またLPSやTNF,IL-1などの刺激により産生が著しく増強されることから低分子のケモカイン・ファミリーに属するサイトカインである可能性が示唆された.さらに,BTK-24の増殖が百日咳菌毒素によって完全に阻害されることよりヘテロ三量体G蛋白Gαiが関与していることを発見した.一方,プレT細胞の分化誘導の機構については,これまで多数の繊維芽細胞や上皮細胞系のストローマ細胞を用いてinvitroで分化誘導を試みたが分化誘導を支持するストローマ細胞は皆無であった.しかしながら,成体マウス胸腺由来のプライマリ・ストローマ細胞との共培養系において,BTK-24がTCRαβ鎖およびCD3分子を発現するT細胞へと分化誘導が認められたことから,胸腺に存在するある種のストローマ細胞がプレT細胞の分化誘導に必要であることがわかった.プレT細胞の増殖に関与する未知のサイトカインやその受容体の同定,分化誘導を起こすストローマ細胞の分離は今後の課題である.
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