研究概要 |
中枢神経の特定の核に局在する蛋白がなぜその核に局在するのか,或いはどのような条件下で局在が起こるのかを検索した。アデノシン受容体サブタイプのうちA2Aが上丘に局在することで視覚入カを増強する形で制御されていること,近年中枢神経の生存促進因子であることが報告されたセレノプロテインPの遺伝子構造を解析し,発現調節に重金属関連転写因子や,インターフェロン関連転写因子を始めとする炎症関連因子が関わっていること,実験的近視眼では近視進展にともない一酸化窒素合成酵素mRNAの特定のサブタイプにのみ発現抑制が観察されること,神経組織以外でも線維芽細胞が骨芽細胞化することで硫酸トランスポーターに遺伝子発現の変化が生じることや被虐待児症候群患児において免疫担当細胞の機能低下が起こっていることなどを報告した。さらに,神経中毒を引き起こすような化学物質の影響を評価するために,実際の作業現場での健康影響を評価する一方,アルキル化酢酸の膜流動性変化に対する構造活性相関を明らかにし,ニトリル化合物が特定の神経細胞にアポトーシスを誘導することを見出し,ニトリル中毒時の行動異常発生機序の一部を明らかにした。現在アポトーシス力スケードのどの部位が標的であるかを検索中である。このことは分子生物学的なアプローチが産業衛生を実践していくうえでも有効であることを示しており,今後とも社会医学への貢献の基盤としたい。さらに,このようなアプローチは神経研究のみに有効なばかりでなく,癌特有の遺伝子発現を知るためにも有用であり,多段階発癌機構を明らかにしたり,癌悪性度の評価や腫瘍マーカーの検索に利用できると考え応用を試みている。
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