研究概要 |
急速な高齢化社会を迎えつつあるわが国において,保健サービスの効果的な提供体制を確立することは緊急の課題である。国際的には,この基礎作業として,地域住民の健康状態の評価に基づく保健サービスのニーズ評価を系統的に実施している。そこで,わが国における地域高齢者の生活の質の評価と,それに基づく保健サービスのニーズ・アセスメントを実施した。対象者には,T県山間地域の65歳以上の高齢者全員(154名)を対象として訪問面接調査を実施した。面接は,保健婦を始めとする保健専門家2人1組で実施した。生活の質の評価項目としては,効用とともに多属性健康指標を用い,健康状態を多角的に評価した。また,同時に生活の質の障害に対応する保健サービスの必要内容と量についても評価行った。その結果以下の結論が得られた。 1) 対象者の効用値(生活の質)は,死亡を0,健康を1とした場合,0.47-0.64の範囲にあり,中等度の健康障害と同様な水準にあった。多属性の生活の質では,男女ともに痛みの訴えが高かった他は,健康障害の割合は低かった。男性では,聴覚と会話において年齢とともに障害の割合が増加することが認められた。一方,女性においては移動,生活動作,認知能力において年齢とともに障害が増加することが認められた。健康状態の評価の信頼性を検討したところ,一致率は80%を越えており,カッパーも0.6から1.0と高いを示し,面接による評価の信頼性が認められた。 2) 対人サービスに関するニーズの必要件数および必要時間数は,訪問指導,医療,介護,家事援助,デイサービスが上位を占めていた。その内で充足率の高かったのは,身辺介護,家事援助であり,その他の項目については充足率は低いことが認められた。住居環境に関するニーズの必要件数を見ると,対応場所ではトイレ,風呂,台所が多く,対応内容では段差改善,手すり,照明,別棟解消が多かった。未充足のニーズを充足するための費用は,対人サービスでは111万円/月であり,住環境ニーズでは1100万円と推定された。ニーズ評価の信頼性については,一致率は70-100%と高い値を示していた。ただしカッパーでは,身辺介護,家事援助などは0.6を越えており実質的な一致が認められた。なお,医療,環境整備では0.3-0.39と一致は低かった。
|