研究概要 |
乳幼児突然死症候群(SIDS)例について脳幹部延髄中央部を,HE染色,KB染色するとともに,神経細胞骨格蛋白(MAP2),ムスカリン様アセチルコリン・レセプター(mAChR),熱ショック蛋白質(HSP70),c-Fosを免疫組織化学的に染色し,弓状核(ARC),舌下神経核(HN),下オリーブ核(IO)の神経細胞変化(障害)を検討した.その結果,全例の各神経核の神経細胞に明らかな形態学的変化は観察されず,MAP2の変化も認められなかった.神経細胞障害時に発現すると言われるHSP70とc-Fosは,1例のみのIOに発現が認められ,HN,ARCに発現は認められなかった.ARCにおいては,MAP2に障害が認められなかったにもかかわらず,mAChR陽性像に変化が認められた.そこでARCの神経細胞数,mACh陽性細胞数について詳細に検討したところ,SIDS群ではARCにおける神経細胞数が対照群(SIDS以外の乳幼児剖検例)に比し多い傾向が得られた.また,SIDS群と対照群ではmAChR陽性細胞の数そのものに差がなく,SIDS群ではmAChR陽性細胞/神経細胞比が低い傾向が認められた. 呼吸障害をきたして死亡した法医剖検例のうち,頚部圧迫(縊・絞・扼頚)群,鼻口閉塞・気道内異物群,溺死群,呼吸不全群の4群と,対照群として熱射病・日射病群の合計5群の30例について,前述した方法で神経病理学的に観察し死因と弓状核(ARC),舌下神経核(HN),下オリーブ核(IO)の神経細胞変化(障害)との関係を検討した.その結果,全30例の各神経核の神経細胞に明らかな形態学的変化は観察されず,免疫組織化学的に細胞骨格蛋白の変性も明らかではなかった.神経細胞障害時に発現すると言われるHSP70とc-Fosは,外因による窒息死症例において,HNとIOの神経細胞に発現が認められた.従って,HNでは,窒息死群における選択的な神経細胞障害が考えられた.また,IOにおいては,溺死群で他の群に比し,HSP70とc-Fosが高率に発現していた.
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