研究概要 |
In situ PCRでは,細胞の形態を保存しかつPCR試薬を細胞内に到達させるための前処理が必要である.この前処理がin situ PCRの全過程のうち最も重要で,一般には,予め固定後の細胞をプロテアーゼで適度に消化して核膜を穿孔するとともにDNAを露出する方法がとられている.しかし,酵素による消化は,細胞の種類だけでなく固定の方法や程度によっても至適条件が異なり,煩雑なうえに再現性が低い.そこで,酵素消化によらない,簡略で再現性の高い前処理法を検討した. 材料には採取の容易な口腔粘膜細胞を用い,Y染色体上のSTR座DYS389IIをマーカーとした.綿棒で採取した口腔粘膜細胞を洗浄し,水浴中で5分間煮沸後,これを鋳型とした.ビオチン標識プライマーを用いて,チューブ内でDYS389IIをPCR増幅後,細胞を洗浄して,アルカリフォスファターゼ標識ストレプトアビジンで増幅産物を検出した. 男性サンプルでは,核のみが染まる典型的な陽性細胞の他に,細胞質まで染まる細胞が認められた.女性サンプルでは,発色は認められなかった.比較として,口腔粘膜細胞をホルマリン固定して同じ操作を行ったところ,未固定細胞と同様の結果が得られた.この結果は,煮沸による細胞の固定/消化がin situ PCRの前処理法として有効であることを示す. 研究期間の大部分を予備実験に費やする結果となり,当初目的としたin situ PCRによるHLA-DQα型判定を達成することができなかった.しかし,細胞の前処理を思い切って簡略化することができたので,補助金の交付終了後も,引き続きin situ PCRによるHLA-DQα型判定法の確立に努めたい.
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