研究概要 |
圧迫された結合組織(膠原線維)に見られる酸性色素のメタクロマジーと弾性線維染色とを組合せて,生前の皮膚に対する圧迫の有無を識別することを試みた. まず,分子量の異なる40種の色素について,圧迫部をよく染めるものと,非圧迫部をよく染めるものを分別し,これらを組合せて圧迫部と非圧迫部の染色性を検討した.この結果,一般染色に用いられているマッソン染色(ゴモリ変法:クロモトロープ2R,ライト緑SF,リンタングステン酸の組合せ)の外に,オレンジG,ライト緑SF,リンタングステン酸の組合せ(以下.OL染色)もまた目的に適う染色性を示した. 次いで,頚部圧迫による窒息死死体から採取し,伸展してホルマリン固定した頚部皮膚試料のパラフィン包埋切片を皮膚に平行して切り出し,まずオルセイン染色で弾性線維を染めた後,マッソン染色かOL染色による重染色を施して検討した.マッソン染色で膠原線維が赤く染まる圧迫部の弾性線維には走行の乱れや断裂が認められ,膠原線維が青緑色に染まる非圧迫部の弾性線雑の走行は整然としている.また,OL染色では.圧迫部の膠原線維が橙黄色に染まり.非圧迫部の膠原線維は黄緑色に染まり,弾性線維の所見はさきと同様である.圧迫部に於ける膠原線維の着色の状態の如何によって弾性線維の観察に難易があり,この点ではOL染色が優れているが.膠原線維の圧迫による染色性の変化に於いてはマッソン染色が優れている.いずれにせよ,今回検討した膠原線維と弾性線維に対する同時染色は生前に於ける圧迫の有無を識別するための有用な手段であることが明らかとなった.なお、死後の圧迫では膠原線維の染色態度は生前の場合と同様であるが,弾性線維の走行の乱れや断端の捲縮は見られない.
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