研究概要 |
黄色ブドウ球菌プロテインA(SPA)は、VH3ファミリーに属するイムノグロブリンVH遺伝子を使用したIgMに結合し、B細胞に対しスーパー抗原様に作用する。このような、ユニークなB細胞結合性を有するSPAの慢性炎症性疾患発症における役割を明らかにする目的で、慢性関節リウマチ(RA)患者B細胞のSPA反応性を検討した。平成9年度における検討において、健常人末梢血に比べRA患者末梢血においては、SPA結合IgM産生B細胞の頻度が有意に高いこと、これは主として、SPAに対して高親和性を示すIgM産生B細胞の頻度が高いことによることを明らかにした。我々は既に、SPA結合IgMの親和性の違いは、可変部に用いられるジャームラインVH3遺伝子の違いによることを明らかにしている(Hakoda,M.,et al.J.Immunol.1996,157:2976)。すなわち、ジャームラインVH3遺伝子は、SPAに対して高親和性をコードするものと低親和性をコードするものとに大きく分けられる。RA患者における高親和性IgM産生B細胞の増加は、高親和性をコードするジャームラインVH3遺伝子を使用したB細胞の増加によるものの可能性と、抗体遺伝子に生じた体細胞突然変異によるものの可能性が考えられる。いずれのメカニズムによるかを検討する目的で、RA患者末梢血より得られたSPA結合IgM産生B細胞クローンから無作為に選んだ35個について、イムノグロブリンH鎖可変部遺伝子の塩基配列を決定した。高親和性IgM産生クローン16個においては、発現したVH遺伝子はすべて高親和性をコードするジャームラインVH3遺伝子に高い相同性を有していた。一方、低親和性IgM産生クローン19個においては、1個を除いて低親和性をコードするジャームラインVH3遺伝子に高い相同性を有していた。以上の結果より、RA患者末梢血における高親和性SPA結合IgM産生B細胞の増加は、特定のジャームラインVH3遺伝子を発現したB細胞の増加によるものと考えられた。
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