研究概要 |
本研究では、以下の現象を捕えてきた。 ・末梢血単核球における可溶性 Fas 遺伝子の膜型 Fas に対する相対的発現増加。・末梢血単核球における全体としての Fas あるいは Fas ligand の message レベルでの発現は健常人対照と比して変化ない。・珪血清可溶性 Fas 値の上昇。・末梢血リンパ球の膜表面 Fas 発現は健常人と差がない。・血清可溶性 Fas ligand 値は健常人と差がない。・健常人末梢血単核球を珪酸化合物,chrysotile B,と添加培養すると細胞のアポトーシスが誘導される。・このアポトーシスは Fas/Fas ligand 系を介した signal 伝達系に対する抗体と中和物質とを同時添加培養することにより阻害しうる。・このアポトーシスの際には message レベルにてFas、Fas ligand それらの伝達に係る caspase-1、3、8の upregulation が出現する。・このアポトーシス誘導能は,工業的人工繊維状物質に比べて明らかに高い。・可溶性 Fas 遺伝子以外にも頻度高くかつ高度に選択的スプライシングによる variant messages が検出される。 末梢血単核球あるいはリンパ球に対する一過性の珪酸化合物による暴露では,細胞はアポトーシスに陥って死滅しその反応は終結するが,職業性に慢性反復性暴露を受けているいづれかの時点で,アポトーシスを惹起せず延命するリンパ球が出現するようになる。この耐性機構獲得には Fas/Fas ligand を介したアポトーシスの誘導機序の調節破綻が重要な役割をしており,可溶性 Fas を多く産生し,膜型 Fas と Fas ligand の結合を阻害することより,この耐性リンパ球の停滞延命を支持するようになると考えられる。このようなリンパ球の中に自己認識クローンが混在していると,将来的な自己抗体の出現や自己免疫疾患の合併を惹起する、ということになろうと考えている。
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