研究概要 |
近年我が国においてはライフスタイルの欧米化とともに食生活の変化が生じ,コレステロール胆石症の増加を引き起こしている.本研究では,コレステロール胆石症における胆嚢上皮の炎症病態ならびにムチン過剰分泌の病態を解明する目的で,胆嚢ホスホリパーゼA_2(PLA_2)の一連の酵素群に関する発現異常について解析し,また胆石形成に関わるムチンの遺伝子の発現異常の解析を行った.さらに厚生省より難病に指定されている肝内結石症についても同様に解析を行った. 胆嚢胆汁におけるII型PLA_2の酵素蛋白の胆汁濃度は,多発コレステロール石では対照ならびに単発コレステロール石に比して有意に高値であった.また胆汁中におけるII型PLA_2の酵素活性を予測する目的で胆嚢胆汁におけるLsoPCならびに遊離アラキドン酸濃度を測定したところ,酵素蛋白量に平行して多発コレステロール石例で両者は高値を示していた.さらにII型PLA_2の胆汁に与える生化-物理学的変化について検討する目的で,胆汁中総蛋白濃度,粘液糖蛋白ならびに胆汁粘度を測定したところ,II型PLA_2の酵素蛋白量が増加している多発コレステロール石では対照に比して有意に高値を示した.多発コレステロール胆石症における胆嚢上皮の炎症ならびに粘液糖蛋白の過剰分泌の病態には,胆汁中II型PLA_2の増加が重要であると考えられた. ウルソデオキシコール酸は胆石溶解剤として日常の臨床の場において使用されているが,その有用性には胆石溶解のみならず,II型PLA_2の発現を抑制することが明らかとなり,アラキドン酸代謝の活性化を介した胆嚢上皮の炎症ならびにムチン過剰分泌の病態を軽減することで,胆石症の有症状化とその進展を抑制することにあると考えられた. 肝内結石症は東南アジアに多発する難病である.本症の成因には,慢性増殖性胆管炎ならびにそれに関連した胆道上皮からのムチン過分泌が重要な役割を演じていると考えられる.本症の結石存在部位の胆管ではIIA型に加えて,V型,X型PLA_2のmRNA発現量が著しく増加していた.それらの発現増加に伴い胆汁中の総ムチン濃度ならびにリゾホスファチジルコリンも増加していた.結石存在部位の胆管において,ムチン産生にかかわるムチンコア蛋白遺伝子では,分泌型ムチン分子であるMUC2,MUC3,MUC5AC,MUC5B,MUC6の発現が増加していた.これらの変化は肝内胆管における結石形成の重要な成因と考えられた.
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