研究概要 |
Transforming Growth Factor(TGF)αはreceptorであるEpidermal Growth Factor receptor(EGF-R)にbindした後その細胞内ドメインであるチロシンキナーゼがリン酸化し一連の情報伝達系が作動するが、チロシンキナーゼの活性化に伴いras遺伝子発現蛋白であるras-p21とGTPとの結合型が上昇する。本来生体内で発現しているras蛋白は,癌細胞において活性化している変異型rasとは異なり生理的に上記の情報伝達系の一部をになっている.今回の研究ではますTGFαトランスジェニックマウス(T)とproto型ras過剰発現トランスジェニックマウス(R)を一定数掛け合わせダブルトランスジェニックマウス(T+R)を作成した。それぞれT,R,T+Rとし、いずれのトランスジーンをも有していないコントロールマウス(C)とphenotypeを比較した。体重はT+RでT,Rに比し有意に低く、体重に対する肝重量比はT+Rで有意に高かった.生後12か月から18か月のT+Rで巨大肝腫瘍を認め(4/15),組織学的には肝細胞癌であった。Rでは皮膚及び尾部にpapillomaを認め(4/15)、Tでは肝腺腫を認めた(2/15)。Tの肝腺腫は癌化には至っていなかった。PCNA染色で生後1年後の各群のマウスの肝臓を染色し比較した。T+Rでは癌部で10%以上、非癌部で約1%の陽性率であった。一方singleのTとRではPCNA染色はO〜0.1%と低値であった。生後約一年でTとT+Rについて2/3肝切除を施行し,肝再生を比較した.肝再生はT、Rに比し,T+Rでは促進されていた.その他の皮膚腫瘍、脾腫瘍などの単独のトランスジェニックのPhenotypeは相互に増強作用を示さなかった. 以上、TGFαとrasの同時過剰発現はマウス自体の発育を阻害し、必ずしも全身臓器の増殖は促進しないが、肝腫瘍発現に関しては弱い相乗作用を、また肝再生に関しては協調作用を有していることが判明した. また付随的に判明したことであるが、膵臓の重量が雌雑ともにTとRのシングルトランスジェニックマウスに比べ、ダブルマウスで増加していた.これは組織学的にも線維化の亢進として見られており、膵線維の増生に関しては、TGFαとrasは相加的に作用する可能性が示された.
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